Twitterでは文字数の制限があるので、論文の内容要約・紹介はむずかしいです。
特に、要約が衝撃的でキャッチーだったりすると、ものすごい勢いで拡散されていきます。そのツイートの後に、補足ツイートがついていたりするのですが、補足は読まれずにパンチ力のあるツイートだけが一人歩きします。
今週目の当たりにした典型的な例をみてみます。
知的障害と行動問題のある3歳児140人を集めて3年間フォローした結果、3年後の行動問題の重篤化を最も予測する因子は、子どものIQや診断名や適応スキルではなく「親の悲観的思考と自信のなさ」であったという研究。https://t.co/RkSBM5JVfq
— 大久保 賢一 (@kenichi_ohkubo) 2018年2月14日
このツイートに対しては、激しい反応が起きました。いわく「育てにくい子を持って、親が悲観的になり自信が持てないのは当たり前ではないか」と。そりゃそうですよね。
ツイートで記事や論文が紹介するときに、URLを貼ることでツイート内容が正確かどうか検証できるようにするのが作法です。このツイートも作法を守りリンクが貼ってあるのですが、論文が英語で書かれていて、本文を読むためには購入が必要なため、論文の現物に当たることが難しいです*1。また、無料で読めるサマリー(要約部分)にはツイートで書かれている内容は書かれていません。
そんな中、猛烈な勢いでリツイート(1万1千以上)がされていきました。「お気に入り」登録数も2万近くあり、本当に多くの人の目に触れました。
そもそも片言隻語*2に過ぎないツイートが大拡散するケースは「読者が元々もっていた信念を補強するような内容」であることが多い。「私が思っていたことが論文によって証明された」と思うわけ。逆に「元々もっていた信念に反する内容」であれば、反感リプライが殺到することになる。
論文そのものは読まれず、わずかな文字数のツイートを「自分の信念・文脈によって理解」して激しい反応を引き起こすんですね。
わたしが当該ツイートから受けた印象は、「また新たな母原病説(自閉症の原因は母親の不適切な対応によるとする説)か」ということです。親がダメだから子どもの症状が悪化する。とても切ない思いをしました。これも、わたしが自分の信念にひきつけて解釈したからですね。
ツイート主である@kenichi_ohkuboさんとやりとりをする機会があり、教えてもらったことは、
- 「子どもに自閉症や行動障害があって、その結果親が自信を持てず悲観的になると行動障害が悪化する」ということを示している研究ではない
- 「親になる以前から元々悲観的に物事を捉える傾向のあった人は、親になったときに通常のペアトレなど単独のアプローチではあまり効果が期待できないので付加的なサポートが必要」という話
- 「特に悲観的な親に付加的な支援が必要」、「というかそこからやる必要のあるケースもある」という当たり前のことを示している研究
でした。実はわたしも見逃していたのですが、最初のツイートの直後に次の補足ツイートもされていました。
行動障害のある子どもの家族を支援するために財政的支援やレスパイトや親グループの活動は一般的に必要であるが、親の「悲観主義」には効果がなく、場合によっては前向きな親がたくさんいる親グループの活動において悲観主義が強まる可能性すらあるという指摘。
— 大久保 賢一 (@kenichi_ohkubo) 2018年2月14日
また、次のツイートも追加されています。残念なのは、フォローしている人以外には届かないことですが……。
とりあえず「子どもに自閉症や行動障害があって、その結果、親が少しでも自信を持てず悲観的になると行動障害が悪化するという話ではない」(そう読み取れるけど)とだけ言っておきますね。子どもに色々あったらどんな親だって程度の差はあれ自信をなくして悲観的になるのは当たり前です。 https://t.co/ZF2mkBbBDY
— 大久保 賢一 (@kenichi_ohkubo) 2018年2月15日
最初のツイートを読んで傷ついている親の人に届けたくて、わたしもこのブログ記事を書いています。
悲観的になるのは当たり前です。18歳の子を持つわたしだって、未だに将来のことを思って不安になり無力感を感じています。ましてや、初めて子どもの障害がわかった時期に悲観的になるのは自然なことです。
ツイートで紹介された研究が主張していることは、もともと悲観的な傾向を持つ親*3にはプラスアルファの支援・配慮が必要だということです。
おわりに、afcpさんのツイートを置いておきます。
親が悲観的なのは当たり前、自信がないのは当たり前という意見を見かけたけど、その通りだと思うな。ただそれに圧倒されてしまわないためには、見通しを立てていくための(専門家の)支援とともに、悲観的であってもいい、自信がなくてもいいという支えも欲しい。そしてそれは専門家にはわりと難しい。
— afcp (@afcp_01) 2018年2月15日
親は自分自身のもつ不安を隠さずに見せていきましょう。だって、それが子育てにリスクをもたらすとわかってきたのだから。「助けて」と。
支援者はだれにでも効く万能薬や特効薬のような支援はないから、選択肢の多い「薬箱」のようなものを持ちましょうというメッセージと受けとめました。
そして、社会は、システムは、親と支援者を狭いサークルに閉じ込めないでほしい。親も支援者も一所懸命です。社会がもっと寛容に多様な存在を認めれば、生きづらさはなくなっていきます。
【追記2018年2月28日】
格物究理(かくぶつきゅうり) 「親の悲観的思考と自信のなさ」と子どもの行動障害
大久保賢一さんが論文の主張を解説する記事が書かれました。ツイート拡散の影響を放置しないための誠実な対応ですね。ぜひご一読ください。
【参考】
関連したツイートのまとめです。ちょっと理解が難しいのですが、参考になります。