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【感想】映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

原作漫画が好きで、吃音をテーマにしていることはそれはそれとして、青春×音楽×バンドという方程式に目がないので、観てきました。
「青春×音楽×バンド」映画は星の数ほど作られていて、こうすれば感動するという定石があります。既視感含めて楽しむのがたしなみだったりするわけです。なので正直それほど期待はせずに行ったのですが、、、実によかった。上映館が少ないのが残念。チャンスがあればぜひ観てほしい。
ネタバレ注意です。
www.bitters.co.jpストーリー
高校一年生の志乃は上手く言葉を話せないことで周囲と馴染めずにいた。ひとりぼっちの学生生活を送るなか、ひょんなことから同級生の加代と友達になる。音楽好きなのに音痴な加代は、思いがけず聴いた志乃の歌声に心を奪われバンドに誘う。文化祭へ向けて猛練習が始まった。そこに、志乃をからかった同級生の男子、菊地が参加することになり・・・。 *1
原作
志乃ちゃんは自分の名前が言えない

志乃ちゃんは自分の名前が言えない

 
 
良かったところ
加代になついて「友達になりたい!」気持ちをムンムン漂わせている志乃。それをわかりながら少しうっとおしがりつつ、「ウチ来る?」と声をかけてあげる加代。うれしくてしっぽを振ってついてくる志乃。可愛かった。
 
志乃がかわいそうに描かれていない。どちらかというと、わがままで(自分ではどうしようもないふうなのだが)吃音に振り回されて、周りを傷つけてしまう。リアルを感じた。
クライマックスで加代と志乃は通じ合ったのか?
加代は音楽が好きなのに音痴だから、志乃がボーカルをやり、加代がギターを弾くデュオで学校祭に出演しようとしていたが、志乃がドロップアウトして、加代は一人で歌うことになる。
 
「魔法」というオリジナル曲を加代がステージで歌うシーンがクライマックスだ。映画を観る私は、加代が音痴を恥じずに歌ったことに感動する。加代も、聴きに来た志乃が本音を叫ぶ姿を、やさしい目で見守っている。カタルシスが訪れる。
 
だが、待てよ、と思う。あそこで志乃は怒っていた。何に?
漫画では気がつかなかったが、「魔法なんてイラナイ。ただ普通に話したり、歌ったり」という歌詞は、加代が素直に綴ったものではあるが、究極的には志乃に対して失礼で無神経な歌だと解釈できる。あの歌は、吃音の苦しみを理解しない他人が甘っちょろく歌った歌詞だともいえる。
志乃はその歌詞を聴いて、加代の無理解に(も)傷ついたんじゃないだろうか。最後の叫びは、加代に向けての言葉ではなかったが。
自分の情けなさを痛いけど抱擁して、誰に対してでもなく「こんな自分が自分だ」という自己宣言を志乃はした。
 
このように解釈しないと、原作とのラストのちがいが理解できない。
加代と志乃は通じ合っていない。加代は「わかんないよ。言ってくれなきゃ」と泣く。そのことばは「話すこと」を求めてしまっている……。仲良くしても、理解し合えないディスコミュニケーションを露わにしているこの脚本は秀逸だ。 
原作とのラストのちがい
ありがちなエンディングは、ステージが終わった後に、志乃、加代、菊池の3人が和解するかたちだろう。原作漫画では「3人が仲良くいっしょに写った卒業写真」が最後に出てきて、和解を表現している。
映画では、ステージの後、菊池は一人で弁当を食べ、加代は一人で音楽をし、志乃は加代と友達になる前と同様に教室でひとりぼっちでいる。そんな志乃にひとりの女の子が話しかけてくるところで映画は終わる。3人はバラバラのままだ。友達には戻れなかったという苦い終わり方になっている。そこがいい。
予定調和ではない。現実に近い。
他にも、いくつかの予定調和ではないセリフ、シーンがあった。いずれも映画を鋭く光るものにしている。
 
・がんばって言葉を出そうとする志乃に対して、「あんたはいいよね、言い訳があって。みんなが同情してくれる」と加代が言い放つところ。
 
・菊地が志乃を直接、ぼろくそに言うシーン
 
・海辺のバス停で加代が志乃に話しかけるが、志乃は答えない。結局、加代は「じゃあ。バイバイ」と別れを告げる。
 
・学校祭で、一人で歌った加代に対して、志乃がぶち切れて叫ぶシーン。「一番私が私をバカにしていた」
 
映画の肝となるシーンを読み違えているのでは?と思う感想をいくつか見た。朝井リョウが寄せたコメントは、さすがに見抜いているなあと思ったので引用させてもらいます。

独りでも、誰かといても、思いを伝えられても共に何かをやり遂げても、自分を象るのは自分。

甘えを許さない脚本だからこそ輝く少年少女の一秒ずつが、

見知った光でなくとも照らされる未来があることを教えてくれる。

「甘えを許さない脚本」まさにそのとおりだった。

 

『どもる体』著者である伊藤亜沙さんのこのレビュー記事もおすすめです。

wired.jp

 

どもる体 (シリーズ ケアをひらく)

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*1:公式サイトより引用。

http://www.bitters.co.jp/shinochan/story.html