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高橋源一郎『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』はキヨミヤくんの章だけは必読だと思う

高橋源一郎『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』読了。
以前キヨミヤくんの章を「すばる」連載中にたまたま読んで、これは傑作になる予感がして、完成したら読みたいと待望していた。

新書で出ているけど正真正銘の小説です。思考実験のようでいて、説話のような、おとぎ話、子ども向け冒険譚。いろいろな読み方ができる。実に魅力的で面白く読んだ。途中までは。

@アイと雪の女王が出てきたあたりから、アレ……?と思って、やはりそういう展開になっていった。

作者はこの小説を21世紀の「君たちはどう生きるか」にしようと思って書いたというが、残念ながら、遠く及ばない。

でも、「10 キヨミヤくんのこと」(p.91-104)の章は、珠玉なので読んで欲しい。一人の少年のモノローグが胸を貫く。
全体が「おとぎ話ですよ」というトーンで進むこの小説世界の中で、生(なま)がのぞく瞬間。同時代の、格差・不平等への告発文。「なぜ自分は、自分たちは、排除され続けるのか」

キヨミヤくんだけが、この小説の登場人物の中で、ユートピア的な学校・家庭・「くに」からハブられた外部的存在だからだろう。シングルマザーとその子である自分を「負け組」と自認するキヨミヤくんが、ユートピアの中にいる主人公を外側から照射している。
評価に困るが、優れた小説にはこういうことがある。たった13ページだが、ずっと何年も心に残り、うずきつづける予感がする。

 

ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた (集英社新書)

ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた (集英社新書)